日記:学習記録を残す・振り返る


 昔、『天才少年ドギー・ハウザー』というテレビドラマがありました。内容はともかく、ドラマのエンディングで、ティーンエイジャーながら医学博士のハウザー少年が、PCに向かって日記を書くのですが、これが新鮮でした。「PCで日記か」、当時まだ日本語が不自由だったPCが恨めしく思えたものです。ドギー少年の日々の経験や思いが綴られて、成長の記録となっていました。

 さて、日本語学習日記をつけてみるのはどうでしょう?でも何のために?

 学習記録をつける、というと堅苦しくなってしまってなかなか取り掛かれない学習者もいるでしょう。でも、Facebookに投稿するなら簡単です。写真や音声、動画などもいれてもいいでしょう。今日困ったこと、身につけたこと、これから何が必要だと今思っているかなど、いくつかのガイドラインを設けて、あとは自由に書くというのがよいのではないかと思います。つまり、日常Facebookやブログを書くのと同じです。ただし、Facebook(の基本設定)のように友だちに向かって書くのではなく、自分に向けて書くというのがよいと思います。言語も母語でかまいません。

 これは、ある意味、「日本語e-Portfolio」を作るということですね。「言語ポートフォリオ」というのは、ヨーロッパで人の移動にともなってその(言語)能力を証明する必要が生じ、それを標準的に示すために、言語でできることのリスト、つまり能力の記述文を並べた『ヨーロッパ共通参照枠(CEFR)』と、それを証明するための『ヨーロッパ言語ポートフォリオ』がヨーロッパ協議会で作られました。 

 青木直子さんは、「『日本語ポートフォリオ』は、教室で勉強する時間が少ない人や、家で机にむかって勉強する時間がない人が、学習支援者(ボランティアなど)に依存しないで、自分でイニシアティブをとって日常生活の中で日本語をうまく学べるようになるために作った道具です。自分の学びたいことや必要なことを決めたり、自分にあった勉強のしかたを見つけたりするために使うことができます。」と述べ(青木直子2008)、日本で暮らす「外国人」のために、以下のようなセクションを考えています。こちらから各国語バージョンがダウンロードできます。

  「はじめに」

  「日本語教室に行こうと思った理由」

  「私の言葉」

  「自己紹介」

  「日本に来るまえ、日本に来てから、そして、これからの希望」

  「私の自己評価」

  「日本語でできます!」

  「近い目標」

  「学習の日記」

  「日本語を覚えたり、練習したりするチャンス」

  「私の好きな勉強の方法」

  「私にとって大切な言葉」

  「私の作品」

 これらの場面で、具体的にどのようなことができるかという記述をあげ、さらに自分で書き加えることができます。このように、ポートフォリオは点数化しにくい「能力」について記述することに向いていますが、日本語の自律的な学習を促す上でも意味があると言われています。

 就職向けの「商用ポートフォリオ」が全盛のご時世ですが、日本語学習支援という観点では、何ができるようになったかを確認して、自分に自信をもったり、意欲を持ったり、今後の目標を考えたりする助けになればそれでいいんだと思います。多くの学習者、特に本人の意志以外で外国に暮らすことになった人は、これまでの経験や能力が新しい環境で活かせず、自信喪失になっている場合も多いでしょう。

 ただし、支援する人は、あまり立ち入らず、ときどき、学習者本人がこれまでの記録をみて振り返った結果、何ができるようになったかを報告してもらうだけでいいのです。